日本の木造住宅を強くする

今回は、「日本の木造住宅を強くする」という勉強会参加により、講師の大学工学部教授や構造の実務者による現在の考え方を皆様と共有したいと思います。

まずご存知のように、新しいところで今年(平成28年4月)の熊本地震により、多くの建物が被害に遭いました。被災された皆様におかれましては、心より追悼の意を表すと同時に、建築に携わる人間のひとりとして、今後も建築物による被害を少なくするよう努力する所存です。

やはり熊本でも古い木造住宅は被害が大きく、いわゆる昭和56年6月以前の旧耐震基準建物と、2000年基準の建物とで大きく被害状況が異なっています。当然ですが、後者ほど被害が少ないということになります。

ただ、現在の耐震基準をもってしても、建築基準法施行令46条(以下施行令46条という)による基準によっては、震度7クラスの地震には耐えられないという事です。皆様は条文を理解されなくても、施行令46条の基準とは「簡易的な耐力壁計算」だと考えて頂いてよろしいかと思います。つまり簡単な計算で構造強度を設計し、それに基づいて建てているという意味です。

現在は震度7が最大であり、1996年に震度5弱や5強乃至は6弱から6強という改定がなされ、この変更の理解がまだ不十分だという話もありました。

阪神大震災では、場所によっては800gal以上の揺れが観測されておりますが、多くは600gal程度と、震度6弱から6強程度であり、震度7まではいっていなかった。それに比較して今回の熊本における震度7クラスが2回続けてきたというその規模がどの程度かは想像を超えるものだったかと思います。

ここでまず、建築基準法においては、大地震時における建築物の構造がどの程度耐えられればいいのかを規定しています。

では建築基準法ではどの程度の地震で倒壊しないかを規定しているかというと、建築基準法による「大地震」とは『300~400gal』を想定しており、震度6弱か6強の下のほうのレベルと考えられますが、この大地震時において『倒壊しない』という基準を設定しています。

つまり「大地震」時において損傷は許容していますが、倒壊せずに人命を守るというのが建築基準法の最低基準となっております。ただ近年、地震の脅威が増しており、やはり「大地震」の定義として800gal以上の震度7を想定すべきであり、震度7の地震がきても倒壊しない建物にするという課題が近々の問題として迫ってきております。

それではその震度7という巨大地震に耐えうる建物を最低基準として設定することが果たして可能なのだろうかというところから、業界として議論すべきところもございます。しかし、実際に震度7クラスの地震がきても倒壊していない建物も多く存在し、それではそれらが現在の性能表示に示す耐震等級の高い建物か否かと言えば、必ずしもそうではないことから、当然震度7クラスの木造軸組み工法を最低レベルとすることは可能だとするのが今回のテーマであり、基準が成立するまでは、各設計者において自主的にそのような設計をしていくという趣旨だと受け止めています。

ここで前述しました震度7で倒壊していない建物は、いったい他の建物と何が異なっていたのだろうか?
今回の勉強会ではこれにも触れましたが、実は木造住宅には雑壁という耐力壁として扱っていない壁が相当数存在しています。そのため施行令46条によってギリギリに設計された建築物でも、この雑壁が効果的に配置されていれば、それ相応の負担を雑壁に持たせることが可能となります。つまり性能表示でいう耐震等級1の建物でも、雑壁の計算を『準耐力壁』として含めて計算していなければ、それだけでも耐震等級2程度になる可能性があり、場合によっては耐震等級3をも超える性能がでることも珍しくはないと私は考えています。

以上から、これからは雑壁に1/3程度の耐力を負担させるというようなものではなく、適切な計算のもとで雑壁を含めて耐震性能を数値化する必要があると考えています。やはり計算で手を抜けば抜くほど現実とかけ離れた揺れが生じるというのは確かですから、雑壁は勿論の事、中には耐力壁には含んでいないけれど耐力壁と同等程度の壁も存在しているのが実情ですから、それら現場における実際の建物に近い設計、というよりは適切な設計をしたうえで現場をその通りに施工する必要性を強く感じます。

●今回の学び
①施行令46条の計算は避ける。(現代社会にそぐわない)
②雑壁(準耐力壁)を考慮して耐震性能3を目指す。
③構造計算を行い、固定荷重を十分見込んで計算する。
以上、私個人としては、現場の施工精度の向上を図り、計算値を確実に反映すべく納まりの良くない部分を改善して耐震性能新基準創設を目指したいと考えます。