仕事とは何なのか?

私にとって仕事とはなんだろうかと考えたとき、必ず20代前半の頃の事を思い出す。
10代はスポーツに力を入れていましたが、いろいろあってスポーツでは限界を感じ、そして私の中で自問自答したのは、「今の私にできる最大の社会貢献は何なのか?」ということ。
その時、私が長い人生を賭しても極力楽しく打込めて人より優位に歩んでいけるとすれば、それは『建築』しかないと強く想いました。
ただ当時の私は現場での実務はそれなりに自信がありましたが、「設計」や「現場管理」という面においてはまったくの素人でした。
それでも私は当時の不況時代を生き抜くためには、元請からの仕事を待っていただけでは家族を食べさせていくこともできないと感じ、いっそ自分自身が元請となって、仕事を調整できる立場になることで、安定的な仕事を確保できるようになろうと思ったのです。
それに元請のほうが長期にわたって工事に携わることができ、ひとつの業種では一棟にかける時間が短いので、それだけ仕事をうまく回していくのが大変だと感じていました。
それからはまずは元請で現場監督をしたいと思い、いろいろな求人の中からある会社の入社が決まりました。
当時の私は、特に独立心が強いというわけでもなく、理想的な上司がいれば一生ついて行ってもいいと思っていましたが、業務にだけは興味があり、「営業→契約→設計→監督→コーディネイト」とすべての分野を一人で出来る人間になりたいと強く思って日々勉強に励みました。

最初に入社した会社では、建売や注文住宅から店舗などを手掛けるごく普通の住宅メーカーでしたが、資本金が潤沢だったので比較的大きな開発現場などにも携わることができ、いろいろと勉強になりました。しかしやはりそのような会社では悪徳営業マンもいて、いやむしろそちら方面の人材が多いのか、基本給ではありますが、売って得る歩合制も採用していたので、当然2か月か3か月に一棟は売らなければ食べていけないので、いろいろと問題はありました。それでも私は現場監督でしたので、多くはありませんが完全な固定給料制でしたので特に不自由はなかったのですが、良いものをお客様に届けたい、もっと安く、そしてもっと良く、そんな向上心が当時の営業マンなどの間に挟まれた位置では実現できるどころか、逆にお客様を悲しませる格好となっていたので、その時私は独立を考え始めました。

そして現場と設計を覚えた私は注文住宅をメインにしている会社に転職しました。
そこでも様々なことを学び、本当に濃い時間を過ごしたような気がします。当初はそのままその会社で精一杯社会貢献をするのもいいかと思っていたのですが、やはり中身を知れば知るほどに魅力が薄れ、もっと安く、そしてもっと良いものをお客様に提供できるという思いが強く、その想いが確信に変わるのにはそう時間を要しませんでした。

そこからは運よく周辺の方にも恵まれて、比較的トントン拍子でいくつかの現場をこなし、そして私が苦労した資格試験分野のソフト開発にも副室長として携わることができ、こうして15年目を迎えることができました。

今思えば、独立当初は最初の一棟が契約できるまでの不安と、契約できてからは完成してお金をもらうまでの不安、そして次の現場が契約できるまでの不安と、同じくその現場を完成させてお金をもらうまでの不安の繰り返しで、特に最初の一棟と二棟目までは不安と期待が入りまじり、最悪は仕事がなければ実力不足なのだからまた会社に勤めようと思いながらやっていたというのが正直なところです。今だから言えること?
ただそれでも勘違いして頂きたくないのは、一棟目から手掛けた物件の仕事だけには自信がありました。考えてみれば当然のことですが、一般的には営業から始まり、プランと予算を詰めたら契約して設計し、細かな仕様などを決めて現場がスタートしますが、そこには多くのスタッフがかかわることになるので、その中に人生賭けて仕事している人が何人いるかを数えたら、私は全ての業務を常に崖っぷちに立たされたように寝る間を惜しまずただお客様の事を考えて一生懸命やっていましたが、それを超える仕事を他社でやってくるかと言えば答えはNOでしょう。ですので私には仕事への自信とプライド、そして今でも続けている日々の勉強をもって他社に負けることはないと思っています。そして何より私にはこだわりを持って協力して頂ける仲間がいます。

以上、「私にとって仕事とは何か?」を考えますと、やはり長く続けられること=好きなことで自分の得意な分野で最大限の社会貢献をすることです。

たまにふと感じるのは、大手企業などがビジネスとして事業をどんどん拡大して便利な世の中にしていますが、それは果たして社会貢献なのだろうか、という事。
会社を大きくすればそれだけその会社では多くの人を雇用し、多くのお客様の役に立つということで、それだけ社会貢献度も高く感じるかもしれませんが、そしたらなぜ従業員に賞与などで内部留保から還元しないのか、同様にお客様に還元しないのか、ということを考えてしまうし、今日時点(平成28年5月15日)においてアップルやヤフーその他たくさんの企業がタックス・ヘイヴンによって一定の課税が著しく軽減、ないしは完全に免除される国や地域に拠点を移している。

人として生きていく上で現時点において義務化されているものは、「納税する義務」でありますが、果たして大企業が課税逃れをして内部留保をため込むことはこれと逆のことをしているのではないだろうか。結局会社の規模や利益を優先すると、そこに過度な競争が生じ、結果的に本来あるべく会社の姿を見失ってしまうのである。さらに一流の料理人が一店舗でコツコツやっているのは、その料理人しか出せない味がそこにあるからであり、二店舗出した途端に一流の味は保てなくなるからだ。つまり大企業では多くのお客様にそこそこ満足してもらうことはできても、トコトンまで満足してもらうことはできないのである。そこが我々技術者としてのスタンダードだと考えます。

平成28年5月15日
長澤 崇史